食事を用意しても、親がなかなか手をつけない。
途中で箸が止まるのに、声をかけたり介助したりすると食べられる。
そんな様子を見ると、「食欲がなくなったのかな」「認知症が進んだのかな」と心配になりますよね。
高齢の方が食事に手をつけない時は、食欲だけでなく、暑さや周囲の環境、食事の硬さや形、姿勢、疲れやすさ、認知機能の変化などが関係していることがあります。
看護の現場でも、自宅では食べられなかった方が涼しい病室では少しずつ食べられたり、食事形態や食器を変えると食事が進んだり、最初の声かけや介助をきっかけに自分で食べ続けられたりすることがあります。
この記事では、「食欲がない」のか「自分だけでは食事を始めにくい・続けにくい」のかを見分けるために、家族が確認したいポイントを看護師の視点でやさしく解説します。
※この記事は一般的な健康情報であり、病気の診断や治療を目的としたものではありません。水分がとれない、意識がぼんやりしている、呼吸が苦しそうなどの急な変化がある場合は、すぐに医療機関や救急相談へ連絡してください。
「食欲がない」と「食事が進まない」は同じではありません
食べた量だけを見ると、どちらも「食べていない」ように見えます。
しかし、実際には次のような違いがあります。
- 空腹を感じにくく、食べたいと思わない
- 食事だと認識しにくく、手をつけない
- 箸やスプーンの使い方が分からず、止まっている
- 疲れやすく、途中で食べる力が続かない
- 硬さや大きさが合わず、食べにくい
- 暑さや周囲の音が気になり、食事に集中できない
- 声かけや最初のひと口の介助があると食べられる
「食べない」と決めつける前に、食事を始めるまでの様子、途中で止まる理由、声かけや介助への反応を見てみましょう。
吐き気、便秘、薬の影響など、食欲そのものが落ちている時の確認ポイントは、高齢の親の食欲が落ちた時の記事も参考にしてください。
最初に体調の急な変化がないか確認する
環境や介助を工夫する前に、まず体調不良が隠れていないかを確認します。
次のような場合は、食事を無理に勧めず、早めに医療機関へ相談してください。
- 水分もほとんどとれない
- 急にぐったりした、意識がぼんやりしている
- 発熱、強い痛み、嘔吐、下痢がある
- 息苦しそう、呼吸の様子がいつもと違う
- 急にろれつが回らない、片側の手足に力が入りにくい
- 何度もむせる、飲み込めない、のどに詰まりそうになる
- 尿が極端に少ない
- いつもと明らかに様子が違う
緊急性が高いと感じる場合は119番へ連絡してください。救急車を呼ぶか迷う時は、地域によっては救急安心センター「#7119」で相談できます。
暑さや周囲の環境を見直す
特に夏は、暑い部屋で過ごしているだけでも体力を消耗し、食事が進みにくくなることがあります。
高齢の方は、暑さやのどの渇きを感じにくい場合があります。「暑くない」と言っていても、室温や湿度、汗、口の乾き、水分量を確認しましょう。
食事の時は、次のような環境も確認します。
- 室内が暑すぎたり寒すぎたりしないか
- テレビの音や人の出入りが多く、集中しにくくないか
- 食卓や食器が見えにくくないか
- 椅子やテーブルの高さが合っているか
- 一人きりの食事が続いていないか
- 食事のにおいで気分が悪くなっていないか
涼しく静かな場所へ移動する、テレビを消す、食卓を明るくする、一緒に食べるなど、小さな環境の変化で食事が進むこともあります。
食事形態が今の状態に合っているか確認する
食欲があるように見えても、食事が硬い、大きい、ぱさつくなどの理由で手をつけにくいことがあります。
次のような様子はありませんか。
- 硬いものだけ残す
- 口の中に食べ物をため込む
- 食べるのに以前より時間がかかる
- 食べこぼしが増えた
- 飲み物や汁物でむせる
- 食後に声がガラガラする、咳が出る
このような場合は、歯や入れ歯、口の中、噛む力、飲み込む力の確認が必要です。
家族だけの判断で細かく刻んだり、とろみをつけたりすると、かえって食べにくくなることもあります。むせや飲み込みにくさがある時は、医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士などへ相談してください。
認知機能の変化で食事を始めにくいことがあります
認知症と診断されていなくても、認知機能の変化によって食事が進みにくくなることがあります。
- 目の前の物を食事だと認識しにくい
- 箸やスプーンの使い方が分からない
- 何から食べればよいか迷う
- 周囲の音や動きに気を取られる
- 途中で食事をしていることを忘れる
国立長寿医療研究センターも、認知症では「食器の使い方が分からない」「食べ始めない」「取りこぼしが多い」といった場面があると紹介しています。
声かけは、「ちゃんと食べて」ではなく、「まずお味噌汁をひと口飲んでみようか」のように、一度に一つ、短く具体的に伝えると分かりやすくなります。
本人が安全に飲み込める状態であれば、スプーンを手に持ってもらう、料理を一品ずつ見せる、最初の動作だけ手伝うなど、残っている力を生かす援助を考えます。
フレイルで食べ続ける体力が落ちていることもあります
フレイルが進むと、食卓まで移動する、姿勢を保つ、箸を持つ、噛む、飲み込むといった一連の動作が負担になることがあります。
食べる量が減ると筋力や体力が落ち、さらに食べることが大変になるという悪循環にも注意が必要です。
- 食事中に疲れて横になりたがる
- 椅子に座っている姿勢が崩れる
- 箸や茶碗を持ち続けられない
- 歩く速さが遅くなった
- 外出や会話が減った
- 体重が減ってきた
こうした変化が重なる時は、食事だけの問題と考えず、かかりつけ医や地域包括支援センターへ相談しましょう。
家族が観察して伝えたいポイント
受診や相談の際は、「食べません」だけでなく、次のことを伝えると状況が分かりやすくなります。
- いつから食事量が減ったか
- 一日にどのくらい食べ、水分をとれているか
- 食事に手をつけないのか、途中で止まるのか
- 好きな物なら食べられるか
- 声かけや介助で食べられるか
- むせ、咳、食べこぼしがあるか
- 体重、尿、便、発熱、痛みの変化
- 薬の追加や変更がなかったか
- 室温や食事場所を変えると違いがあるか
できれば一緒に食事をして、食べ始めから食べ終わりまでの様子を見てみましょう。短い動画やメモが相談時に役立つ場合もありますが、撮影は本人の気持ちに配慮してください。
家族ができる食事の工夫
- 涼しく静かな場所を整える
- 一度にたくさん盛らず、少量ずつ出す
- 使い慣れた食器や箸を使う
- 好きな物や見慣れた料理を取り入れる
- 一度に一つの短い声かけをする
- できる動作は本人に任せ、必要な部分だけ手伝う
- 食べた量と水分量を記録する
大切なのは、無理に完食させることではありません。
「なぜ食べないの」と責めるより、「暑くない?」「噛みにくい?」「一緒に食べようか」と、食事が進みにくい理由を一緒に探していきましょう。
看護師あややからのひとこと
病院では、「家では全然食べなかったのに、入院したら食べています」とご家族から言われることがあります。
その背景には、涼しい室温、決まった食事時間、本人に合った食事形態、食事を始める時の声かけや介助など、いくつかの違いが重なっている場合があります。
反対に、入院による環境の変化で食べにくくなる方もいます。大切なのは、「食欲がない」と一つの理由に決めつけず、どんな環境なら食べやすいか、どこまで自分でできるかを丁寧に見ることです。
家族が気づいた「介助すると食べる」「涼しい場所なら食べる」という変化は、大切な情報です。受診や相談の時に、ぜひ伝えてください。
まとめ|食べない理由を一つに決めつけない
高齢の親が食事に手をつけない時は、食欲だけでなく、体調、暑さ、食事環境、食事形態、認知機能、フレイルなどを一緒に確認することが大切です。
声かけや介助で食べられる場合は、本人に残っている力を生かしながら、必要な部分だけ支えてみましょう。
ただし、水分がとれない、急にぐったりした、むせが増えた、体重が減ってきたなどの変化がある時は、家庭だけで抱えず早めに相談してください。


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